【塾長コラム】埼玉入試に『季語』!
埼玉県の公立高校には、詩や短歌・俳句は、これまでほとんど出題されませんでしたが、今年、やっと『俳句の季語の出題』が知識問題として出題されました。公立には出なくても私立入試では時々出るという現実から、勉クラの中学部の国語科年間カリキュラムの中には必ず『短歌と俳句』の単元が入っています。でもなかなか出なかった……。
そしてついに、23年の入試で、芭蕉の俳句と『季語』が出題されました。
──(図1:問題をご覧下さい)
一年を春夏秋冬に分けたとき、アは「夏草や」とあるので夏、エは「蝉の声」だからさすがに夏、さあ、となると一つだけ季節が異なるのはイの「天河(あまのがわ)」か、ウの「五月雨(さみだれ)」か、ということになります。
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わが教え子たちは、試験中にクスッと笑みがもれたのではないだろうか?
季語が出題されるとしたら、《五月雨》《五月晴れ(さつきばれ)》と《こいのぼり》だよと教えてしまうほど、《五月雨》は、季語を問う出題では“定番中の定番”だからです。
出題者は、なぜ《五月雨》を出したくなるのか? それは、俳句の季語が、旧暦(きゅうれき)にもとづいていて、わたしたちが今使っている新暦とのちがいを知っているか、それを受験生に問いたいからなのです。
そこが出題のポイントということです。
江戸時代まで使われていた暦(こよみ)=カレンダーは【旧暦(きゅうれき)=太陰暦(たいいんれき)】です。現在使われている【太陽暦(たいようれき)】とは、ひと月の長さも一年の長さもちがっています。わたしたちが現在使っている太陽暦では一年が365日、そして、太陰暦では一年は354日です。
当然のことながら季節にズレが生じます。だいたい一ヶ月から二ヶ月のズレがでることがあります。昔の5月は、今の5月ではないということ。
なんだかめんどくさい。
でも、ご安心を。
──(図2:をご覧下さい)
年賀状に新春あけましてと書き出すように、旧暦では、春が1月から始まります。1月2月3月が春で、4月5月6月が夏。7月8月9月が秋で、10月11月12月が冬だったのです。
旧暦の5月は、今でいうとだいたい6月くらいにあたります。だから、《五月雨》とは、つまり今でいう梅雨の長雨だったということです。じとじと降る長雨で山形の最上川はさぞかし増水し、あつめて早し状態だったにちがいありません。
というわけで、《五月雨》は、俳句では夏の季語なのです。
もちろん、《五月晴れ》も《こいのぼり》も5月なので、俳句の世界では夏の季語になります。
ちなみに、天河(あまのがわ)や、七夕(たなばた)などは、秋の季語です。夜空を見上げて月や星がきれいなのは秋というのが私たちの常識ですが、旧暦では、秋の月は7月8月9月になるということに気をつけましょう。
本来秋におまつりする七夕を、新暦で行うものだから、全国の幼稚園児は梅雨のまっただ中どしゃぶりの雨の中で笹の葉短冊に願いをこめることになります。だから園児たちはとても願いはかなわないと毎年思い知らされる、ということになっちゃうわけです。
旧暦の七夕(7月7日)は、今でいうとお星さまがきれいな9月くらいだったはずなんですのにね。
余談。
勉クラの教室の書庫には指導のために角川の俳句歳時記が置いてあります。八〇〇〇語ほどの季語が季節ごとに載ってるやつで、ブランコが春の季語になってるけど、どう? と塾生たちに問いかけます。うんざりする子供たちに、ね、だから、入試のために季語なんて覚える必要はないんだよ→出題されるものは決まってるんだから、それだけ確認しとけばいい、と、わたしは教えます。
入試の準備はポイントをおさえるのが肝心。
どこぞの塾では、先生が自身の指導の浅さを棚に上げて、可哀想に季語をかたっぱしから覚えろ! ってどなられてるそうです。だから、子どもの時点で俳句や短歌に興味がもてなくなるという本末転倒が起きてるそうな。
ちなみに、プレバトに出演する際は、夏井先生に才能ナシと言われないために《歳時記(さいじき)》を必ずポケットにいれておくようにするのがオトナのたしなみです!
勉強クラブ国語科担当
塾長 深谷仁一
日本脚本家連盟、日本放送作家協会員