【ヒゲ先生のコラム】悪ガキ奮戦記/理科の授業体験
これも、中1のときだったろうか。ある日、理科室に向かうと先生は几帳面な太陽系の図をすでに板書してあった。たぶん、北半球の四季についての説明は時間がかかる単元なので、その先生は授業の前に板書を準備していたらしい。
太陽を中心に、季節毎の4つの地球がめぐっているという、あの図である。
地球は一年365日で太陽のまわりを1周してくる。これを公転という。一方、われらが地球は自転といって、一日24時間で一回転している。
そして、地軸が公転面に対して23.4度傾いているために、地球には『四季』が生まれる(詳しくは理科の教科書を見て下さい)。
先生はご熱心にその説明をしてくれた。
そして、悪ガキであった私はその授業に大きな衝撃をうけた。小学生までのバカな私は、春が来ればそのあと夏になり、そしてやがて秋をむかえ秋が終わると冬になる。そんなことは当たり前のことで、猿がごとくなーーんにも考えずに生きてきたのだけれど、この日、私は、この地球上の四季という現象が天体の大きな動きの中で起きていることを初めて知った。
この日の下校時、ショックをうけた私は、電柱によりかかって息をついた。「これまでのボクはなんてバカだったんだろう・・・」そして、知識を得るということがどれほど大きく素晴らしいものかに触れ、感動していた。
令和の今は、ユーチューブの無料動画もたくさんころがっており、よほどやる気のないずぼらな先生でなければ、この単元は動画を見せて説明していると思う。
しかし、60年代の終わりに、動画はなかった。だから、勢いのある素晴らしい理科の先生に出逢った私は、本当に幸せだったと思う。
閑話休題
70歳を目前にした私は、最近、やたら病院のお世話になっている。そして、CTやX線検査を何度もうけるうちに、一体、私は年間に何ミリシーベルトの放射線をあびているのか気になった。
しかし、高校の物理をさぼりまくった私には、そもそも、放射能や放射線の知識が薄い。
「深谷クンはいい返事をするから今度の期末テストで20点プラスしてやるからな」という物理の先生は、人柄は良さげであったが、授業はまったくなってなかった。あだ名がハタ坊という先生だった。だから、というのもはばかれるが、私はそっち系の知識を得る機会をすっかり失してしまった。ハタ坊が、もうちょっとまともに物理の中身について興味深く説明してくれていたら、と悔やまれる。
でも、第一線を退いた今、私は、ゆっくりと好きな書物に触れることができる。自分の知識の薄い部分を補填する作業は、実に楽しい行為でもある。
最近手にしたのが『原子力のことが一冊でまるごとわかる』という本だ。高校物理をさんざん無駄にしてしまった私にはとっても難しい本で、内容を理解するのにとても時間がかかる。
世界のモノ、物質は原子からなりたっている。そして水素だのヘリウムだののその原子には重さがあって、重たい原子の中に『ウラン235』という物質がある。原子の中心は原子核からなっていて、核は陽子と中性子からできている。そして太陽系モデルのように、その核のまわりを電子がクルクルまわっている。もちろん太陽系が見えないのと同じくあまりにも小さい粒子の世界なので誰もそれを目で確かめることはできない。
あくまでも、理論上の領域の話である。
物理学の世界は、かつて人類は200年間もニュートン力学に頼っていた。中学で学ぶ慣性の法則も作用反作用の法則も、全部ニュートンが為し遂げた理論なのだが、20世紀になってキュリー夫人とアインシュタインが登場する。
特殊相対性理論、例の、E=mc2(2乗)である。Eはエネルギーを、mは質量つまり重さ、そしてCは高速を表しているらしい。そして、ここから先がどうも分からないのだが、ウラン235のような重たい原子の核のまわりにある中性子が別の原子核にぶつかると、すごいエネルギーが放射線とともに放出されるという(核分裂という)。すごく小さなモノなのに爆発的なエネルギーを放出するという。
そう、原発がそうだし、広島の核爆弾では一発で14万人が亡くなってしまうほどのエネルギーを発する。原子の力をもつ鉄腕アトムも、たしか10万馬力だったはずである。
核と核、つまり、重さ(質量)のあるモノとモノがぶつかると何故大きなエネルギーが放出されるのか、文系の私にはどうもそこんとこがさっぱり分からない。(つまり、E=mc2が本当のところ全く理解出来ていない)
試しに、この間、病院のレントゲン室で放射線技師に、なんでモノとモノがぶつかるとエネルギーがでるんですかと訊いたが、私の知識の薄さをあわれんだか、「それはね、高校物理の勉強をしなおせばわかりますよ」と言って気の毒そうな顔をされた。
それはハタ坊が・・・と、恨み節を言いかけたがやめた。高校物理を自ら進んで学べなかった私が迂闊すぎたのである。人生で出逢う先生のすべてが素晴らしいとは限らない。いや、むしろ、素晴らしい先生にはめったに出逢えない。ただ、いい先生に出逢えると、学生たちは確実に心を動かして学びの世界に入り込む。
※本日のコラムの内容、私の知識の乏しさ故にまちがった記述が含まれている可能性があります。どうか、メール等でご指摘下さい。
日本放送作家連盟
日本脚本家連盟員
深 谷 仁 一